闇の塔 十壱

   第四章  暁 闇   承前





「公主!?」
 塔の入り口、追いかけてきた揺玉に驚きの声を上げた蒼牙は、
「あなたはわたしのために命をかけてくれた。ならば――」
 揺玉の繰り返した言葉に、重い溜め息をついた。
「無茶が過ぎる」
「わたしが無茶な女子おなごだということは、先刻承知のはずだ」

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闇の塔  拾

    第四章   暁 闇    承前




「行くか、やはり」
 楊駿よう・しゅんが云ったのは、婦人の亡骸なきがらを葬った後のことであった。
 うす紫の風の中に立つ二人を、少し離れた場所から少年が眺めている。
 絳花こうかは、敬愛する婦人の墓前で、一夜を明かすつもりらしい。
 気を利かせたつもりなのだろう、姜進賢きょう・しんけんたちの姿も、そのあたりにはない。
 黄昏たそがれの色だけが、美しい住人を失った、古い宮に垂れ込めていた。
「無謀は承知の上だ」
 感情を交えぬ、静かな口調で蒼牙が答える。
「いけません!」
 翎児れいじが叫んで走りよってきた。

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闇の塔 九

 
     第四章  暁 闇 

                                       八より


 自室として与えられた一間で、揺玉はもの思いに沈んでいた。 
 細い指の間で、紅色の花がくるくると回る。髪に挿されたときには鮮やかな色合いであった花が、今はしおれ、黒ずんで見える。
 同じように、揺玉の心もしおれている。所詮は異なる世界の住人。そう、蒼牙に告げられた言葉が、胸に重かった。
 ――少しは、わたしのことを想ってくれている。そう思ったのは、誤りだったのだろうか。
 だとしたら、
 ――なぜ、わたしを救った。命を懸けてまで。

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闇の塔 八

 
  第三章  母子   承前



 そうして――。
 今日も森は、常と変わらぬ穏やかな明るさに満ちていた。
 時折、小鳥のさえずりが聞こえ、小動物が枝を駆け回る姿も見える。そよ風に名も知らぬ小さな花が揺れている。
 木洩れ陽を浴びて、木の間隠れの細道を辿る蒼牙の足取りは、この数日でかなり確かなものになってきたとはいえ、常の、異名の狼か猫科の獣を思わせるしなやかさは、まだ取り戻せてはいなかった。
じょう公子!」
 高い声に視線を向けると、揺玉と連れ立った絳花こうかが、大きく手を振っているのが見えた。二人ともが襦裙じゅくん姿で、籠を手にしている。
 なにやら盛んにかぶりを振る揺玉を、蒼牙のほうへ押しやるようにすると、ぺこりと大きく頭を下げ、絳花は向こうへ駆けていってしまう。どうやら、気を利かせたつもりらしい。

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闇の塔  七

 
     第三章  母子

                                       6より



 〈ひつ〉には神殿が無い。璞煌星はく・こうせいが国主となって数年のうちに、その殆どが全きまでに破壊し尽くされている。神職者たちも、あるものは追放、また、より多くのものが冥塔に投じられたという。頑として神殿を去ることを拒み、いずれ天からの罰が下されようと煌星を糾弾した神殿長が、建物とともに焼き殺されたという噂も、巷間には伝わっていた。
 ここ、城都の北の森の奥深く、幾重もの緑に守られて建つ、青月宮と名づけられた神殿を除けば。
 しかし、こことても詣でる者はもとより、神官、巫女の姿も既になく、壁の浮き彫りもひび割れ、蔦が這い、多くの房は時の侵食に任せられている。
 それでもここが他の神殿のような蹂躙じゅうりんを免れているのは、ひと組の少年少女にかしづかれて、ひっそりとこの場に暮らす佳人のゆえであったろうか。

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闇の塔  六

     第二章 《闇》    承前



 淡い蝋燭の明かりを頼りに、二つの影が狭い塔の階段を登っている。足音が周囲の壁に不気味に反響し、後ろの男の抜き放った匕首が、時折り、蝋燭の灯に鈍く光る。どうやらそれで、前の男を脅しているらしい。
 階段が尽きた。
 二人の前に、重々しく黒ずんだ金属製の扉が立ち塞がる。
 頼りなげな明かりが、その扉に刻まれた封じの古代文字を浮き上がらせた。
「開けろ」
 後ろの男が低く命じる。
 押し殺したその声は、楊駿よう・しゅんのものであった。もう一方の手にも、細長い包みを提げている。
「お……お許しを」
「開けろと云っている」
 ぴたり。首筋に冷たい刃を押し当てられ、獄吏は渋々錠を外した。
 重い音を立てて、扉がわずかに開く。
 最初に聞こえたのは、何かの絶叫する獣めいた声。
 ―― 蒼……!
 次の瞬間、その隙間から、何かが二人目掛けて襲い掛かってきた。

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闇の塔  伍

       第二章 《闇》  承前



「つまらぬ」
 残心の姿勢のままの煌星こうせいの唇から、チッと小さな舌打ちが洩れるのと。
 くくっ……と、蒼牙の喉奥から、これはさげすみとも取れる笑声が洩れたのと。
 果たしていずれが先であったのか。
「瞬きひとつせぬ、か」
 忌々しげに云った、煌星の双手に握られた刃は、蒼牙の喉もと一寸ばかり手前で、ぴたりと止められていたのである。
 獄舎に走りこんできた楊駿は、思わずその場にへたり込んでいる。
 そうして蒼牙は――

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闇の塔  四

        第二章 《闇》     承前




 一群の暗雲が、月の玲瓏の面を汚しはじめていた。
 そして、その影の落ちたところから、石像が動き始めていた。
 一角の獣を、翼を持つ虎を、人面の蛇を、女人の貌と上体を持つ鳥を、象った石の像が、緩慢な仕草で台座から降り立ち、二人を取り囲もうとしている。

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闇の塔  参

       
           第一章 魔公子 承前




「この小屋が発見されたと!?」
 小者の報告に揺玉の、そして付き従う武人たちの顔色が変わった。
 あの戦いから半年あまり。揺玉たちは〈ひつ〉にいた。
 〈へき〉王室の残党狩りを打ち切って帰国の途に着いた璞炫はく・げんを討つべく、生き残りの武将たちを糾合して後を追い、〈畢〉の国内に潜入。機会を得られぬままに、郊外の森の外れにある、誰のものとも知れぬ、荒れた狩猟小屋に潜んでいたのである。
 その隠れ家を目指して、武装した〈畢〉の騎兵の一隊が進んでくるというのである。

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闇の塔  弐

      第一章  魔公子


 序章より


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rei★azumi

Author:rei★azumi
ヒト属ネコ科 コタツ猫亜種 読書ネコ
『神鵰侠侶』で金庸にハマった、金庸初心者。
とりあえず、金庸の小説全作品読破を目指すも、突如神鵰侠侶二次小説にハマる。
さて、この先、どうなりますことやら。

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