『志怪』『伝奇』などと呼ばれる中国の不思議な物語を「夢の巻」「恋の巻」「怪異の巻」の3部構成、各12節の合計36節に分けて紹介、解説した本で、
『西遊記』『水滸伝』『三国志』『金瓶梅』『紅楼夢』の有名どころの内容の一部紹介や、
「邯鄲の夢」や、『聊斎志異』の「葛巾」「侠女」など有名な話も載っていますが、
それ以上に、知らない話が山盛り。
(よく似た話のほかに、同じ話の書き換えと云うのもあるらしいです)
ちょっとホロリとさせられる話や、
(早くに母をなくした少年のところへ、何人かの子どもがやってきて「弟」と呼んで可愛がってくれるが、それは亡母が生前大事にしていた人形の化身だった)
クスリと笑わせられる話、
(それぞれ、妻と夫の再婚に嫉妬して現れた幽霊が、仲人婆の口利きで、幽霊同士結婚してしまう)
ぞっとさせられる話、
(結婚したら、奥さんが実は幽霊だった、と云う話がいくつか)
等々、色々とありまして、
中国っで国は、いったいどれだけ怪異譚があるんだ~と思うのと同時に、
井波先生、まえがきの最初で、
「子は怪力乱神を語らず」という言葉は、儒家思想ひいては儒教の現実主義・合理主義をずばり表現したものとして、はなはだ人口に膾炙(かいしゃ)する。
と、真面目に書いていらっしゃいますが~
(にもかかわらず、中国には幻想文学・幻想物語が大量にあって……と続くわけですが)
ちょっとひねくれた読者といたしましては、京極夏彦さんが作中で書いておられた、
「まあ、小難しい話は横に置いておくとして、儒家が今で云う怪異好きであったことはまあ、間違いないんです。孔丘先生(孔子)がわざわざ語るなと云ってるくらいですから、止めなきゃ語り倒していたんでしょう」
語り倒しますかと柴は大いに受けた。
「だって語るなと云っても皆語るじゃないか。(後略)」
『陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)』よりというのを思い出して、にやぁ~り、とさせられるんですが、
(大体、志怪小説を書いたりまとめたりするのって、知識人ですしね~)
同時に、この本に紹介されていた志怪小説、猛烈に読みたくなってきます。
あと、読んでて「へぇ~」と思ったのが、『長恨歌』に関する話。
白居易は、あれの執筆中、楊貴妃と同門の楊家の女性に深く恋をしていて、なので、『長恨歌』の楊貴妃のモデルは、後に奥さんになったこの女性らしい。で、彼女は、若い頃は蒲柳の質で病気がちだった、というものです。
そういわれれば、唐代は、ふっくら型の女性が美人とされていて、たしか楊貴妃もその型だったはずですが、
作中の楊貴妃のイメージって、豊満、艶麗と云うよりは、雨に打たれる梨の花とか、楚楚として儚げな~と云うか、なよっとした感じですよねぇ。
(ねぇ、と云われても知らん、とか云われたりして(苦笑)
と、これは、なるほど~と納得の話でした。
それから、私的にちょいと気になったのは、『恋の巻』の最初で、恋の歌として紹介されていた『上邪(天よ!)』と云う詩。
上邪
我は君と相知り
長えに絶え衰うること無からしめんと欲す
山に
陵無く
江水
竭くるを為し
冬に雷 震震と
夏に雪降り
天地 合すれば
乃ち敢えて君と絶たん
これ、井波先生は女性から男性に向けた恋の歌だと書いておられまして、
専門家がそう仰るんだから、間違いないんでしょうが、
な~んか、武侠小説とか武侠ドラマとか、ある程度の数を目にしますとねぇ、
江湖の侠客たち、義兄弟の契りで、このくらいのことは口にしそうな気がして(^m^)プププ……
(男性でも、こういうことを口にしそうな情熱的なキャラも、ひとり、ふた~り……)