神鵰二次小説 暁闇 -ぎょうあん-

たしか、この辺りだったはずだ。
 打狗棒で茨をなぎ払いながら、耶律斉は古い記憶を辿る。
 終南山もその周辺も、およそ三十年前のモンゴル軍の焼き討ちと、その後に新たに茂った草木とで、周囲の光景を一変させてはいたが、それでも変わらないもの幾つかある。
 例えば、迷路を思わせる奇岩の配置。あるいは、川の流れ。
 そのせせらぎの音を頼りに川に達し、かつて潜った水路を辿り、暗黒の通路に至る。
 水に濡れぬように油紙に包んで持参した蝋燭ろうそくを灯しながら、岳母の推測通りに、本当にあの二人はここにいるのかと思った。それならば、なぜ義妹は今日に至るまで二人に逢うことができぬのか。そうして又、岳母は何故なにゆえに、この通路の存在を義妹に教えなかったのか。
 あるいは ――
 と、そんなことを思いながら歩を進めて行くうち、
 ふつ、と。
 足許で、何かの切れる微かな、音ともいえぬ音が聞こえた気がした。
 何が ―― と、目と耳を凝らし、闇の中に何一つ見出せぬことに嘆息して、再び歩を進めはじめる。
 そうして、ものの十歩も行かぬうち、
「何者だ?」
 聞き覚えのある声が、すぐ間近に響いた。
 はっとしてあたりを見回し、
「楊兄弟か!?」
 声を上げる。
「楊兄弟。楊夫人。こちらにおいでか? 耶律斉が参った!」
 さして声を張り上げずとも、深い内功に裏打ちされた耶律斉の声は良く通る。
「耶律兄か!」
 再び間近に、ごく柔らかく声が聞こえ、
「今行く。そこで待っていてくれ」
 云われてから、洞穴の向こうに当人の影が現れるまでに、いくばくかの間があった。
 内功が深いほど、遠方から放たれた声も間近に、柔らかく響く。
 やはり彼には敵わないのかと、耶律斉は小さく溜め息を吐いた。
 もとより競うつもりも、太刀打ちできるつもりもない。が、崋山の頂で別れて以来、自分とて無為に時を送ったつもりはない。それでも、彼の方も又、当時ですら至純と思えた内功に、さらに深みが加わったようである。
 と思う間に、黒影が流れるように近づき、蝋燭の火明かりの作るささやかな結界に踏み入る。
 濡れそぼった耶律斉を頭からつま先まで眺め下ろすと、
「表から入って来りゃあいいものを……」
 楊過は ―― 江湖に神鵰大侠の令名を轟かせた長年の友は、 至極呆れた口調で云った後、表情を鋭いものに一変させ、
「やはり、襄陽が良くないのか」
 表情に相応しい、険しい口調で云った。

 大宋の開慶元年(1259年)襄陽城の戦いに皇帝モンケ・ハーンを失い、本国への撤退を余儀なくされたモンゴル軍に対し、追撃を命じられたのは時の右丞相・賈似道か じどうであった。が、モンゴルの勢いを恐れた賈似道は、朝廷の勅許を得ずに、単独でフビライとの間に講和を結ぶ。
 しかし、この虚偽は程無くフビライの知るところとなり、みたび宋とモンゴル ―― 元との間に戦端が開かれることとなった。
 大宋の咸淳かんじゅん四年(1268年)、モンゴルは襄陽に向けて大軍を発したが、襄陽は孤立無援のまま、これをよく防いだ。そうして四年。兄弟との争いに勝利し、皇帝の地位に付いたフビライは、襄陽に向けて更なる大軍を投入しようとしている。その間、幾度となく送られた援軍の要請を、朝廷は黙殺し続けたという。
 そのモンゴルの包囲を抜けて耶律斉がもたらした手紙には、達筆な女文字でただ二行。

 半巻紅旗臨漢水   (半ば巻ける紅旗 漢水に臨み)
 霜重鼓声寒不起   (霜は重く 鼓声 寒くして起こらず)

 鬼才絶とその才能をうたわれた唐の詩人、李賀の『雁門の太守の行』のうちの二行で、うちの“易水”の二文字を襄陽を臨む“漢水”に読み替えてある。
 以下、この詩はこう続く。
 
 報君黄金臺上意   (君の黄金台上の意に報いて) 
 提携玉龍為君死   (玉龍を提携し 君が為に死せん)

 目にした楊過の顔色が一変したことは、云うまでもない。
 時に咸淳八年(1272年)初冬。



 数日の後。
 楊過と小龍女の姿は、襄陽城外の羊太傅廟ようたいふ びょうの中にあった。
 かつて、丐幇かいほうの前幇主である魯有脚ろ ゆうきゃくがクドゥに殺害され、楊過が尼摩星じませいを倒して郭芙と郭襄を救った因縁の廟は、守るものもなく、更に荒廃の色を深めている。
 敢えて襄陽城内へ入ることを避けた二人は、ここで郭夫妻を待つことにした。情報収集という名目で城外へ出ていた耶律斉が、このことを岳父岳母に告げて、ここへ伴う手はずになっている。
 古墓の闇に慣れた二人に明かりは不要である。廟の淡い闇の中、二人は肩を寄せ合うように座っていた。
 楊過はふと、小龍女の膝の上に置いた華奢な手に自分の手を重ねる。その白い手が、ひどく冷たかった。
「龍児。心配なのか?」
 云って、少し笑う。
「俺が、おじさん、おばさんと一緒に死ぬと云い出すんじゃないかと」
 はっとしたように顔を上げた小龍女は、小さく「いいえ」と答えた後、すぐに長いまつげを伏せた。
「……いえ、そうね。あなたが、そう決めてしまったら、私には止めることはできない。でも、子供たちのことを考えると……」
「心配しないでいい。俺にはお前以上に ―― お前と子供たち以上に大事なものなど、ありはしないんだから」
「うん」
 小龍女がうなずいたとき、廟の外から人の気配と、幾人かの声が聞こえた。
 つと立ち上がり、楊過は廟の扉を開ける。
 濃藍の夜から切り抜かれた黒影は、待つ間もなく懐かしい人の姿になり、
「過児!」
 驚きと喜びの声を上げた。
「過児。龍さんも一緒か。よく来て下さった」
 ご無沙汰をとひざまずこうする二人を、郭靖は慌ててとどめると、
「こんな場所でなく、城内に来てくれれば ―― 」
「駄目よ、靖さん。誰かに姿を見られでもしたら、過児を私たちの運命に巻き込むことになる。神大侠楊過は、もはや伝説ですもの。一旦城に入ったら、それこそ救国の旗頭に祭り上げられてしまうわ。私はもう、過児を龍妹から取り上げたくない ―― 二人を引き離したくはないのよ。まして二人とも、もう、子供の親ですものね」
 黄蓉が、ほとんど一息に云う。
「過児のことだから、人知れず城を立ち去るのは難しいことではないでしょう。でも、そうなると今度は ―― 神鵰大侠に見捨てられたとなれば、城内の士気はどれほど落ちるか、わかったことではないわ」
「いつもながら、お前にはかなわんよ」
 肩をすくめて笑う郭靖と、それに笑みを返す黄蓉。こんなところは十数年 ―― いや、それ以前と少しも変わらない。二人ともに、特に郭靖は至純の内功の持ち主である。滑らかな身のこなしも、それぞれの発する“気”も、ともに老いを感じさせるものはない。
 が、それでも歳月は確実に、二人の上に降り積もっている。
 髪にも、そして郭靖の髯にも、随分と白いものが増え、顔にもいく筋ものしわが刻まれている。目の前にいるのはいわおに似て幾青霜もの風雪に耐え、かたくななまでに『国と民のため』を貫いてきた老武人と、常に傍らでそれを支え続けてきた、老いてなお美しいひとりの婦人であった。
 楊過は二人を、特に郭靖の顔を眺め、口を開きかけて、首を振って密かに溜め息をいた。
 夫婦は供に、楊過が江湖を渡り歩く間に幾人かの男たちに、そして女たちの上に見てきたかおを ―― すでに死を決してしまったものの貌をしていた。
 改めて、ここに来るまで、そして二人の顔を見るまでは、殉国じゅんこくの意思をひるがえすことができるかもしれない。そう思っていた自分に気付く。
 そうして、この二人の、自分の胸の内に占めていた重さにも。
 もはや、何者にも二人の意志を翻させることはできまい。
 そう悟り、胸に迫ってきたものを無理に押し殺し、そうして、それを決したのは郭靖と見て、楊過はしみじみと、今度は黄蓉の顔を眺める。
「おばさんも、大変な相手に添ったなあ」
 つい、嘆息めいた言葉になった。
「後悔はしていない。私にとって靖さん以上の夫、これ以上の人生はあり得なかったわ。私は、むしろ龍妹りゅうめいのほうが大変だと思うのだけれど? 気ままだし、ものの考え方は普通じゃないし……。どう、龍妹。過児の妻でいるということは、なかなかに大変なことなのじゃなくて?」
「郭夫人が、どうしてそうお考えになるのか、私にはわかりません。過児は、私をとても大切にしてくれますし、多分、子供たちにも良い父親なのだと思います。子供たちも、とても過児を慕っていますし。私たちは、とても幸せです」
 昔に変わらぬ淡々とした口調に、これですものねと黄蓉は破顔する。星明かりに楊過の顔を透かすように眺めると、
「そうね。顔つきが少し、いえ、随分穏やかになった。幸せに暮らしてるのね」
「ああ」
 楊過は微笑し、一瞬目を伏せる。それで ―― と視線を上げたときには、その顔つきは伝説の大侠のものに一変していた。
「郭おばさん。俺に何をやらせたい?」
 さすがねと、黄蓉も婦人にしては不敵にすぎる笑みを返す。
「相変わらず聡いこと」 
「あんな思わせぶりな手紙をよこされて、気付かないわけがないだろう。おじさんならともかく、おばさんが、ただ別れを云うためだけに、俺達を呼び出すわけがない」
「過児。その“俺ならともかく”というのは何なんだ?」
「それだけ、おじさんが真っ直ぐな人だってことだよ」
 いささかならぬぞんざいな口調で云うと、で? と黄蓉に話を促す。
「頼みたいことがあるのよ。二人とも中へ入って。靖さんも、座って頂戴」
 無言で二人の後ろに控えていた耶律斉が、廟内へ入って明かりを灯す。それぞれが、それぞれの場に座を占めるのを確かめてから、廟の外へ出てゆこうとするのに、
「斉児。あなたも座って。改めて聞いて頂戴」
 耶律斉が座に着くのを待ち、蝋燭の作り出す灯りの中、黄蓉は順に四人の顔を眺める。
 楊過と小龍女の顔に視線を定めると、毅然とした表情になって云った。

 生きて、と。

「過児。それに龍妹も、よく訊いて頂戴ね。これは斉児にも頼んであることだけれど。生きて、そうして見守ってほしいのよ。私たちのすること、そして、その行く末を」
「おばさん?」
 意味を問おうとする楊過を、笑んで制すると、靖さんと黄蓉は夫の方を顧みる。
「いや。やはり、お前から話してくれ。俺はどうも、口下手でな」
「そう? そうね」
 それじゃあと云うと、黄蓉は懐から薄い冊子を取り出した。これを受け取って頂戴と、楊過に手渡す。
 薄い絹地で作られたそれを、楊過は胡坐の膝に乗せ、左手で押さえながら繰って行く。ふと視線を感じて顔を上げると、『慙愧ざんき』と大書したような顔つきの郭靖と目が合って、つい、苦笑させられた。
 楊過が右腕を失ったのは、この人のせいではないし、それに、
「もう、慣れちまったよ」
 軽い口調で云って、冊子の上に視線を戻す。
 事実、もう、人生の半ば以上を隻腕で過ごしている。腕を断たれた怨みなどは、とうに捨てたし、武芸は無論、日常の行動にも不自由を感じることは無くなっている。強いて困ることと云えば、小龍女が未だに世話を焼きすぎることと、子供たち ―― 特に息子が、父親を見習って左手だけで何かをやろうとすることくらいだった。
 苦笑を浮かべたまま、黄蓉の筆跡らしい達筆な、細かい女文字に目を走らせて行く。
 ――『九陰真経』?
 いまさら何をと眉をひそめて顔を上げ、先をと視線で促され、それに従う。
 半ばを過ぎたあたりで小さく息を呑むと、すばやく残りの部分に目を走らせる。
「龍児」
 開いたままの冊子を手渡した。
 ここを ―― 指で示された箇所かしょに視線を走らせ、小龍女が小さく声を上げる。
 過児 ―― と視線で問いかけてくるのに頷いてから、
「おばさん。これは――」
「やはり、思ったとおりだったわね」
 黄蓉は、自分の考えが当たったときの、いつもの余裕の笑みを見せる。
「あなたたちの身につけた『九陰真経』は完璧なものではない。そんな気がしていたのよ」
「そうらしいな。俺たちが身につけたのは、王重陽が古墓の壁に彫り付けたものだ。林朝英祖師の編み出した『玉女心経』が無敵ではないと、残された弟子たちに知らしめるために」
 云った楊過の表情が、僅かに皮肉なものになったのは、互いの意地と世のしがらみに妨げられて、ついに結ばれることのなかった二人の先人を思ったためである。
 ことに王重陽は、その『玉女心経』―― 玉女素心剣法が、いつの日か自分とともに戦うことを夢見て林朝英が編み出したなど、夢想だにしなかったのであろうから。
「それで、どうしてこれを、俺たちに?」
「ええ。ここからがわば本題。よく聞いて頂戴ね。
 もう、あなたも知っているでしょうけど、フビライは更なる大軍を率いて襄陽を伺っている。今度こそ……城を守りきることはできないでしょう。そうすれば、いえ、それ以前に」
 言葉を切り、あなたにもわかっているでしょうと、黄蓉は無言の問いかけを送る。
「ああ。宋朝の命運は、すでに尽きている」
 冷然 ―― というより、むしろ当然の事実を告げる冷静な口調で、楊過は問いに対する答えを返す。耶律斉が、はっとしたように顔を上げ、郭靖は沈痛な面持ちで無言を守っている。小龍女ひとりが、ごく静かな表情で楊過の顔を見ていた。
「そう。朝廷は奸臣に牛耳られ、巷には汚吏が横行し、浮民は凶盗と化し ―― その凶盗すら、役人・兵卒に比べれば、はるかにマシだと云われている。何年も、いいえ、何十年も前から宋朝の命運はとうに尽きていた。襄陽が落ちれば臨安まで、モンゴル軍はどれほどの抵抗も受けずに兵を進めるでしょう。遠からず、中華の大地は蛮族の席巻するところとなる。
 でもね、過児。昔、あなたに学問を教えたときに話したかしら。古来から、一度興って滅びなかった王朝はないわ。そうして、王朝の滅亡は、常に内側の崩壊から起こっている。元 ―― モンゴルだって例外ではないはずだわ。そして、そのときがくれば」
「そうだ。そのときがくれば、我が漢の民は再び立ち上がる。立ち上がって、蒙古を中原から追い払うのだ」
「…………」
「そのときのために、その時代の誰かに役立てるために、靖さんと私は残しておこうと思っているの」
「何を?」
「『武穆遺書ぶぼくいしょ』『九陰真経』そして『降龍十八掌』。靖さんの降龍十八掌は洪七公師匠直伝のもの。残念ながら、斉児にも破虜にも全てを伝えることはできなかった」
「俺は、できることならお前に継がせたかったんだが」
 いくらか未練を残した養い親の言葉に、楊過は苦笑してかぶりを振る。
 あるいは、欧陽鋒を義父とすることがなく、武兄弟と争うこともなく、あのまま桃花島にいたなら、そういうこともあり得たろうか。
 否 ―― と、楊過は再度、内心でかぶりを振る。
 幾たびとなくあった人生の岐路。幾度生まれ変わり、幾度選択を迫られようと、楊過にとって小龍女とともに歩むこと以外に選ぶ道はない。今ここに小龍女とともにある代償に、再び同じ人生を繰り返せと云われれば、楊過はためらわずに、その道に踏み込んで見せるだろう。
 無意識の仕種。楊過の手が愛する妻の手を求め、華奢な白い手が、それを握り返す。耶律斉が、ちょっと度惑った様子で目をそらし、黄蓉が、そうねというように微かに笑んでうなずいた。
 今のモンゴルはと、再び言葉をつむぎ始める。
 今のモンゴルの勢いは、さながら海嘯かいしょう(津波)。海嘯を人の手で押しとどめることはできないけれど、波の去った後の地を整え、再び種をまき、実りを得ることはできる。
 叶うならば、あなた方は、この海嘯をやり過ごし、生き延び、種をまく人たちの助けになりとなってほしい、と。
「そうして ―― 遠い将来、これらのを身につけたものが、もし、道を誤るようなことがあったら、その『九陰真経』をもって制して欲しい。そのためにも、この完全な形の『九陰真経』を伝えていって欲しいの」
「おばさん……それは ―― 」
 どれほどとんでもない話か ―― 云おうとして、楊過は口を閉ざす。
 数世代どころか、十数世代を要するかも知れぬ壮大な構想。女諸葛の異名を持つ希代の才女は、自分どころか子々孫々までを、その壮大な計画のうちに巻き込もうとしているのである。
 いや。おそらく、この婦人の目論見は、それだけではあるまい。
 妻の方に顔を向け、いいかと視線で問う。無言のまま頷くのを見て、僅かに苦笑した。
 ―― 解ってるのか、龍児? 俺がこれを引き受けるということは、鴻児こうじたちまで、おばさんの計画に巻き込むことになるんだぞ。
 ―― いいのよ。あなたのしたいようにして。あの子達もきっと、わかってくれる。
 視線だけで言葉を交わし、頷きあう。
「引き受けてくれるかしら?」
 黄蓉の言葉に、
「ああ。引き受けた。約束する」
 答えて、ふ ―― と嗤うと、
「前言撤回だ。とんでもない人と添ったのは、おじさんの方だったな」
「さっきの龍さんの言葉じゃないがな、過児。何だってお前がそう思うのか、俺にはわからんぞ。阿蓉おようほどの妻は、この世のどこを探したって、二人といるものじゃない」
 真顔の郭靖の言葉に、恐れ入りましたと楊過は笑って頭を下げてみせる。
「おじさんほどの心境には、この楊過、生涯かかっても到底及ぶものではありえません。改めて敬服いたします」
「そうとも思わんが。それより過児。俺は不思議に思うんだが、お前の敬語は、時々、どうしてそう不遜に聞こえるんだ?」
「そりゃ、心がこもってないからに決まってるだろ」
 養い親の素朴な疑問を一刀両断にすると、それでと、楊過は視線を黄蓉に戻す。
 神妙 ―― というより深刻な顔つきで聞いていた耶律斉が、小さく噴き出していた。
「それで、方法は決まってるのか?」
「それはまだ。『武穆遺書』は箱に収められ、その在処は掛け軸に秘されていたわ。私たちも、それに順ずる方法を取ることになるでしょうけれど」
「武芸の秘伝書だ。剣に託すのが相応しいかと、阿蓉とも話してはいるんだが。お前たちの君子剣と淑女剣のように」
 瞬間、楊過の顔をかすめ去った微かな嫌悪の色に気付き、黄蓉が、つと夫の袖を引く。何をと眉をひそめた郭靖は、一拍をおいて理由に思い当たり、あっと声を上げた。
「そうか! すまなかった。淑女剣はお前の腕を――」
「おじさん。それは ―― 」
「靖さん!」
「過児!?」
 制止する二つの声に、小龍女の声が重なり、
「どういうことなの!?」
 小龍女は楊過に、悲痛な表情を向けた。
「あの剣は、私が郭芙さんに上げたものだわ。あなたと郭芙さんが結婚を ―― 」
「龍児。もういい」
「いいえ。よくはないわ。あの剣が ―― あの剣が、あなたの右腕を切り落としたの!?」
「もういいんだ、龍児。全部昔の ―― 三十年近くも前のことだ。俺とお前は、こうしてここに一緒にいる。一緒に生きてゆける。これ以上、何を望むことがある? お前を抱くのに、この左手だけでかまわないと、お前も云ってくれたじゃないか」
 ええ、と頷く小龍女を抱き寄せて、
「このことは忘れろ。俺も忘れる」
 楊過の囁きに、小龍女が再び小さく頷く。
 郭靖にひどく戸惑った様子の視線を向けられた黄蓉は、肩をすくめると苦笑してかぶりを振る。この二人の人目をはばからぬ熱愛ぶりは、今に始まったことではない。いまさら、驚くにも呆れるにも当たらない。
 目のやり場に困った様子で、古びて蜘蛛の巣に覆われた神像を眺める振りをしている耶律斉に、更に苦笑すると、こほんと小さく咳払いをする。
 ごく当たり前の仕種で体を離し、座りなおす二人に、どこまで話したかしらと黄蓉は少し人の悪い笑みを向けた。
「剣に秘伝書を託す。そういう話だったな」
「ええ。襄児と破虜に託すのだもの。そういう方法も考えられるということ。ただ……百年、二百年を損じない刀剣。しかも、秘伝書を秘めるとなると……」
「材料か……」
「ええ。並みの鋼では、とても ―― 」
 しばし、廟のうちに沈黙が満ちる。どれほどか立って、楊過がふと口にしたのが、
「玄鉄重剣」
 この言葉だった。
「いいえ、いけないわ。あれは――」
 かまわないと、楊過は淡い笑みとともに云う。
「国のため、民のためとなれば、鵰兄も、独孤ご先輩もお怒りにはならないだろうさ。それに、『物に滞らず、草木竹石均しく剣と為るべし』 この境地は、俺が俺のやり方で子供たちに伝えてゆけばいいことだ」
「でも、それでは、あまりにもあなたに済まないわ。これまでだって ―― 」
「俺と龍児がこうしていられるのも、おじさんとおばさんのおかげだ。お二人のためなら、俺にできることなら何でもするよ」
 過児の云うとおりですと、小龍女が微笑んでうなずく。
「過児……」
 笑ってかぶりを振ると、楊過は、つと立ち上がる。
 廟の扉を開けて、暗い夜空を仰ぐようにした。刃に似た鋭利な夜気が廟内に忍び入り、蝋燭の火を微かに揺らす。
「今月の二十四日。おちびちゃんの誕生日だったな」
「え……ええ」
「あの子には罪なことをしちまった。すまないと、そう……思ってる」
 呟くように云うと、黄蓉の方に視線を向ける。
「玄鉄重剣。数日のうちに襄陽城へ届けておく。もし、上手く行かなかったら、鍛えなおして、あの子の佩剣はいけんにでもしてやってくれ。俺からの、せめてもの誕生祝いだ」
「過児……私は ―― 」
「うん?」
「私たちを ―― いいえ、私を許してね。子供のころに僅かばかりしてあげたことを、あなたは未だに恩に着てくれるけれど、それはあなたがしてくれたことの万分の一にも満たない。あなたには、何の恩も返せてはいない。それなのに、また、大きな重荷を負わせようとしている」
「おばさん……」
「それだけじゃない。私は、随分長いこと、あなたという人間をわかってあげられなかった。誤解して、時には憎んで。私は ―― 」
「いいんだ、おばさん。子供の頃の俺は、手のつけられない悪ガキだった。お二人の深い思いも知らずに、逆恨みして随分暴れた。それに、親父のこともある。親父のしたことを思えば、おじさんもおばさんも随分俺に良くしてくれたと、ありがたく思ってるよ。それに ―― その全部が重なって、今の俺という人間がある。さっきも云ったように、俺も龍児も、おばさんには感謝している。だから」
「ええ。ええ……」
 何度も頷くと、黄蓉は、ふ……と澄んだ笑みを浮かべた。
「最後に、きちんと云っておきたかったのよ。これで思い残すことはないわ。靖さんは?」
「……いや、俺は ―― 」
「そう。じゃあ、もう行って。云うまでもないでしょうけど、この先も龍妹と幸せにね」
「ああ」
 それではと小龍女の手を取り、背を向けようとする楊過を、
「過児!」
 立ち上がり、郭靖は呼ぶ。が、かつての英雄大宴の時と同じ。俺は ―― と云ったきり、胸にわきあがる思いを言葉にすることが、この希代のと云われる英雄にはできなかった。ただ、俺はと繰り返し、かつての養い子の顔を見つめるばかりである。
 ふ……と、沁みるような笑みを見せ、楊過はその前に、あらためて膝を折る。
「伯父上、伯母上。これにてお別れいたします。お二人に育てていただいたご恩、いつぞやの教え、胸に刻んで生涯忘れません。それでは」
 深く頭を下げ、立ち上がると袖を払い、踵を返すと廟を後にする。小龍女がそれに並ぶ。
「お二人とも、ご武運を」
 その声を名残に、黒白二つの影が、黒暗の闇に舞った。
 楊兄弟と声をかけて、耶律斉がその後を追う。
 そこまで送ろうとの声が、夜闇の中に響き、見送ろうと夫妻が外へ出たときには、三つの影はすでに深い闇の中である。


 なあ阿蓉と、郭靖がふと思いついたように云ったのは、三人を見送ってから、時にして茶を一杯飲むか飲まぬかの後である。
「阿蓉。まさか、あの二人 ―― 」
 フビライの暗殺を企てたりはしないだろうなとの懸念を、ぴたりと察し、大丈夫よと黄蓉は笑う。
「大丈夫よ、靖さん。きっと過児が止めているわ」
「逆じゃないのか?」
「いいえ。過児は、一時の激情にさえ流されなければ、存外に怜悧な子よ。あの子は ―― あら、いやだ。一廉ひとかどの大丈夫を“あの子”だなんて。長年の癖は抜けないものね。むしろ心配なのは、一本気な斉児のほうだけど。きっと大丈夫だわ」
「そうか」
 頼みごとに ―― 使命に託した想いに気付いてくれたかどうかはわからないが、楊過が、使命を果たしてくれるであろうことを、黄蓉は知っている。勝手気ままに生きているように見えて、約束は ―― 誓いは何があっても守る人間だ。
 たとえ、それがどほど辛く苦しいことであっても。
 以前にも無理な頼みごとをして、そのせいで郭襄 ―― 愛しい娘ばかりか、当の楊過にまで無用の苦悩を強いてしまったけれど。
 そう。郭襄の楊過に対する慕情を悟り、せめて、その想いが薄れるまでは逢ってやってくれるなと、そう楊過に頼んだのは、黄蓉だったのである。
「過児は、靖さん、あなたが望んだ以上に見事な男になってくれた。芙児も申し分のない相手に託すことができたし。襄児と破虜は……もう一人前だもの、きっと、それぞれにやっていってくれることでしょう」
「阿蓉。お前、本当にそれでいいのか?」
「靖さんこそ、心残りはないの?」
 悪戯いたずらっぽい表情で訊かれ、郭靖は真面目な表情で考え込む。こんなところは、一緒に江南を放浪した十代の頃と殆ど変わらない。と、黄蓉が微笑ましく思ったとき、ふむ……と、郭靖が低く声を上げた。
「心残りがないといえば、嘘になる。こうだったらと思うことについては、キリがない。が、おおむねいい人生だった。何より、阿蓉、お前がずっと一緒にいてくれた」
「だったら、いいの」
「阿蓉?」
「いいのよ」
 云うと、黄蓉は郭靖の背に覆いかぶさるようにする。

 教えておくれ 何が情けか
 生きるも死ぬも委ねてか

 ひくい声で歌った。
「私も、あの白ワシと一緒なの。一羽だけでは飛べないのよ」
「阿蓉」
「ねえ、覚えてる、靖さん?
  生きていても 靖さんの背中 死んでも 靖さんの背中」
「縁起でもないこと云うなよ」
「覚えててくれたのね。」
「忘れるもんか。お前が裘千仞きゅう せんじんの鉄掌を受けたときだったな。お前を背負って瑛姑えい この沼へ迷い込み、そのあと俺たちは、一灯大師の元まで行った」
「靖さん、涙ぐんでたわよね」
 くすくすと、若い娘のように黄蓉は笑う。
「生きるときも靖さんと一緒。死ぬときも靖さんと一緒。ね、置いてゆかないでね」
「ああ。一緒に行こうな」
 手を取り合って、二人は廟の外へ向かう。

 こうして、生きながらにしてすでに伝説であった二人は、新たな伝説に向かって歩き出す。


 襄陽城内の郭襄の房に、密かに玄鉄重剣が密かに届けられたのは翌日の夜。目覚めた郭襄が気付いたのは翌朝。これが倚天屠龍いてん とりゅうの刀剣に鍛えなおされ、後の江湖に血風を巻き起こすこととなるのだが、それはまた別の物語である。


「なあ、楊兄弟」
 耶律斉が思い切ったように声をかけたのは、羊太傅廟ようたいふ びょうからの岐路。
「もし、私たち二人が ―― 」
 云いかけた言葉を、
「駄目だ」
 言葉の剣が、ばさりと断ち切った。
 まさか自分の胸のうちをと、耶律斉は驚いて足を止める。が、向けた視線の先にあるのは、人型に切り取られた二つの影ばかりである。
 俺たちが ―― と、同様に足を止めて楊過は云う。
「俺たちが、今フビライを暗殺すれば、モンゴルは再び兵を引くかもしれない。あるいは、十数年の平和は保たれるだろう。今の俺たちには、難しいことじゃない」
「だったら ―― 」
「だが……なあ、耶律兄。俺たちが思いつく程度のことを、郭おばさんが ―― あの女諸葛が考え付かないと思うか?」
 現に五十年近くの昔、モンゴルの最初の侵攻のときには、郭靖はその先鋒となった義兄弟あんだのトゥルイの暗殺を企てている。今、敢えてその策を取らぬということは、それは無意味と二人が判断したということなのだろう。
「それに、今、一旦十数年の時をかせいでも、その次はどうなる? そのまた次は?」
「宋の命運はすでに尽きている。そういったな、楊兄弟は」
「それだけじゃない。いや、そういうことなのか……」
「楊兄弟?」
「気付いてるんだろ? 死に場所を ―― 死に時を決めちまったんだ、あの二人は。天帝にだって誰にだって、止められるもんじゃない」
 あるいは、宋の滅亡を見るに忍びないからなのかと、楊過はこの呟きを胸のうちに留める。
「楊兄弟。わたしは ―― 」
「生きろ、と、おばさんは云ったんだ。生き延びろと」
 おそらくこの先、まさに鉄血の海嘯を素手で押し留めようとするがごとき、無益で悲壮な抵抗が、幾たびとなく繰り返されることだろう。
 亡国のための戦という概念は、奇妙に男の血をたぎらせるものを持っている。
 それに巻き込まれるな。引きずられるな。頭を垂れ、膝を屈し、時に卑怯のそしりを受けようとも、愛するもののもとにとどまり、生き延びてほしい。
 そのために、必要ならば大儀を、使命を与えようと、あるいはこれは黄蓉の“母”としての想いであるのかもしれない。
「それに、耶律兄は丐幇の二十一代の幇主。数千の丐幇の弟子に責任を持つ身だ。洪、黄、魯の各幇主の名を辱めない名幇主だとも聞いている」
 云われて、耶律斉はかすかに頷いた。
 耶律氏は本来りょうの皇族。金に国を滅ぼされ、元に仕えた。
 その元の皇后に父を毒殺され、兄を殺され、耶律斉は今、宋の民として元と戦っている。
 その岳父、楊過の養い親である郭靖もまた、幼少時を元 ―― モンゴルで、ジンギス・ハーンの庇護の下で育ち、金刀駙馬 きんとうふば―― 息女の将来の夫と定められてもいたと聞く。
 それゆえに。と楊過は思う。二つの国を祖国とするがゆえに、二人はともに宋のみを祖国と思い定め、敢えて命をかけようとしているのではあるまいか。
 そして楊過の父 ―― 顔も知らぬ、命と、後のさまざまの誤解と苦悩のみを楊過に与えたあの父も、二つの祖国を持つ身であった。金国の王子として育ち、その地位と富貴に執着したがゆえに故国を裏切り、売国奴として横死したと聞く。
 しかし、果たしてそれだけか。楊過は思う。
 十八の歳まで実子として慈しんでくれた、その金国の王に対する恩愛の情もあった。そう考えるのは、子ゆえの欲目か。
 ならば、かの父、楊康もまた“国”というものに引き裂かれ、殺されたとは云えまいか。
 だとすれば ――
「なあ、耶律兄。“国”とはなんだろうな?」
「楊兄弟?」
「国のため、民のためにこそが侠の中の侠とおじさんは云った。民はわかる。だが、“国”とは何だ?」
 自ら滅亡に向けて歩みを続ける宋の朝廷か、あるいはこの山河を指すのか。云いかけて、楊過は口を閉ざす。
 おそらく、耶律斉には答えることはできまい。
 あるいは黄蓉にすら答えることはできないかも知れぬ。
 その漠然としたものに、おそらく郭靖は殉じようとしている。
 愚直なまでに、己の定めた信念に従って ――
 答えようのない問いを投げかけ、不意に口をつぐんでしまった友に、耶律斉は戸惑いの視線を向ける。
 が、目に映るのは眼前の黒白の影。暗夜の中、その表情は判じがたく、さくの細月は、どこに隠れたのか影も見ず、星影もまばら。
 漢水の流れも黒くよどみ、襄陽城の夜営の灯だけが、遠く、小さく、ひどく頼りない。
 くらい……思わず呟く耶律斉に、
「夜明け前は暗いものさ」
 あえて軽い口調で、楊過は答える。
「だが、必ず夜明けは来る ―― か」
 続けた耶律斉の言葉に、返されたのは、ごく低い笑声。
「だが……その夜明けを、わたしたちは見ることはないのだな」
「ああ。見られるのは、孫か、曾孫ひまごの代か。もっと後か ―― 」
「孫に曾孫か。楊兄弟、君がうらやましいよ」
 古墓の中で見た、それぞれの容貌を受け継いだ幼い子らを思い浮かべ、耶律斉はしみじみと云う。
 琴瑟きんしつ相和す仲でありながら、彼と郭芙の間に、子は授からなかった。
「これは、天の下された罰かもしれない」
 郭芙が、ある日ぽつりと口にしたのは、何年前のことか。
「楊兄さまの右腕を断ち、龍ねえさまに毒針を打って、二人の大切な十六年を奪ってしまい、それを悪いこととも思わなかった。その十六年、お二人が辛い思いで過ごしている間、私はあなたに大切にされて、幸せに過ごしてきた。これは、そのことに対する罰」
「芙妹。君は、楊兄弟を――」
 思わず問いかけた耶律斉に、嫌い、と激しい口調で云って、郭芙はかぶりを振った。
「大嫌いだった。いいえ、今だって嫌いよ! 楊兄さまが桃花島の家に引き取られたのは、武の兄さま達と同じとき。一遍に兄さまが三人も出来たようで嬉しかったのに、楊兄さまだけは、私にかまってくれなかった。見てだってくれなかったわ。だから、大嫌いだった」
 では、初恋だったのだと耶律斉は思った。
 自分の思いにすら気付かなかった、この妻らしい、不器用な ――
 襄陽大戦以来、その性質を随分と穏やかなものに変えた妻ではあるが、新婚当時の我がままで気難しかったころから、郭芙が耶律斉にとって可愛く愛しい妻であることに変わりはない。祭祀を行うべき後嗣こうしを持たぬという、祖先に対して最大の不孝を行うこととなろうとも。
「耶律兄も作りゃぁいいじゃねえか。まだ遅くねえだろうが」
 若いころの伝法な口調の、あからさまなもの云いに、耶律斉は思わず赤面する。
 互いの表情も見えぬ暗夜をありがたく感じた途端、快活な笑い声を投げられて鼻白んだ。
「楊兄弟――」
 非難の云葉をかけようとした。刹那、楊過の笑い声が、不意にくぐもった。
 そのまま、押し殺した嗚咽にかわる。
 これまで押さえに押さえてきたものが、わずかな感情の揺らぎに、せきを切ったものか。
 ―― 楊兄弟……。
 声を放って嘆けば、おそらくその声はしょうとなり、天地を揺るがす。
 蒙古の陣営に届き、万の軍勢が押し寄せようと、恐れる男ではあるまい。
 ただ ――
 今はまだ、廟の内に座しているか、あるいは襄陽城への帰路にあるだろう二人に聞かせぬために ―― 二人の心を乱さぬために、楊過は声を殺すのだろう。
 ―― それほどに、お二人を……
 思わずみはった視界の中、崩れるように膝を折った黒影と、手を差し伸べ、それを抱きしめる白い影とが映った。
 暁闇ぎょうあんはただ三人の上にくらく重く、曙光しょこうは未だその兆しすら見えない。










ということで、近況報告に書きました『暁闇』の改定版……それにしても、長くなったなぁ。
改訂箇所としては、長くなりすぎるからとカットした郭靖、黄蓉の会話と、新たにワンエピソードを追加。
あと、楊過の台詞等、ちょこちょこと書き換えております。
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コメント

( ̄m ̄*)V

すらんぷ脱出したんですねww

mogumoguさんへ

うん。なんとか。ありがとー\(^o^)/

しかし……我ながら、やたら長い話になっちゃたんで、
読む~というか、コメント蘭にたどり着くの、大変だったでしょう?

読み比べたよ~

前作と読み比べたよ~
ざ~っとで、ごめんけど。

超個人的感想を言わせてもらうと、
前作のほうが私は好きかなぁ。
カットしたおしゃべりのシーンが好きなんだろうな。

たぬきちさんへ

え~と……
おしゃべりをカットしたのは、前作の方なんだケド(^▽^;)

ともあれ、やたら長くなっちゃった話、読んでくれてありがとうね。

ありゃま、こりゃ大変失礼!!

ごめんね、しっかり読んでなくて。
大変失礼しました。
ここのところの会話好き~というのが、両方のページにあった・・・
ガビーン(><;)スクロール行き過ぎたのかな?
あぁ、恥ずかしい・・・・

たぬきちさんへ

お気になさらずに~(^.^)
なんせ、初稿を書いてた段階で、前後編に分けようかな~
と、思ってたくらい長いですから。
(コメント欄にたどり着くまで、難儀だったでしょ(^▽^;)

それより、おしゃべりのどのへんを気に入ってくれたか知りたいな。

ちょっと長いけど、下のところらへんが全体的に好きです。
言葉のまわし方とか。
「阿蓉。お前、本当にそれでいいのか?」
「靖さんこそ、心残りはないの?」
 悪戯いたずらっぽい表情で訊かれ、郭靖は真面目な表情で考え込む。こんなところは、一緒に江南を放浪した十代の頃と殆ど変わらない。と、黄蓉が微笑ましく思ったとき、ふむ……と、郭靖が低く声を上げた。
「心残りがないといえば、嘘になる。こうだったらと思うことについては、キリがない。が、概おおむねいい人生だった。何より、阿蓉、お前がずっと一緒にいてくれた」
「だったら、いいの」
「阿蓉?」
「いいのよ」
 云うと、黄蓉は郭靖の背に覆いかぶさるようにする。

 教えておくれ 何が情けか
 生きるも死ぬも委ねてか

 ひくい声で歌った。
「私も、あの白ワシと一緒なの。一羽だけでは飛べないのよ」
「阿蓉」
「ねえ、覚えてる、靖さん?
  生きていても 靖さんの背中 死んでも 靖さんの背中」
「縁起でもないこと云うなよ」
「覚えててくれたのね。」
「忘れるもんか。お前が裘千仞きゅう せんじんの鉄掌を受けたときだったな。お前を背負って瑛姑えい この沼へ迷い込み、そのあと俺たちは、一灯大師の元まで行った」
「靖さん、涙ぐんでたわよね」
 くすくすと、若い娘のように黄蓉は笑う。
「生きるときも靖さんと一緒。死ぬときも靖さんと一緒。ね、置いてゆかないでね」
「ああ。一緒に行こうな」

熟年夫婦のはずだけど、この新婚さんのような愛のある直球の会話。
 冥くらい……思わず呟く耶律斉に、
「夜明け前は暗いものさ」
 あえて軽い口調で、楊過は答える。
「だが、必ず夜明けは来る ―― か」
 続けた耶律斉の言葉に、返されたのは、ごく低い笑声。
「だが……その夜明けを、わたしたちは見ることはないのだな」
「ああ。見られるのは、孫か、曾孫ひまごの代か。もっと後か ―― 」
「孫に曾孫か。楊兄弟、君がうらやましいよ」
 古墓の中で見た、それぞれの容貌を受け継いだ幼い子らを思い浮かべ、耶律斉はしみじみと云う。
 琴瑟きんしつ相和す仲でありながら、彼と郭芙の間に、子は授からなかった。
「これは、天の下された罰かもしれない」
 郭芙が、ある日ぽつりと口にしたのは、何年前のことか。
「楊兄さまの右腕を断ち、龍嫂ねえさまに毒針を打って、二人の大切な十六年を奪ってしまい、それを悪いこととも思わなかった。その十六年、お二人が辛い思いで過ごしている間、私はあなたに大切にされて、幸せに過ごしてきた。これは、そのことに対する罰」
「芙妹。君は、楊兄弟を――」
 思わず問いかけた耶律斉に、嫌い、と激しい口調で云って、郭芙はかぶりを振った。
「大嫌いだった。いいえ、今だって嫌いよ! 楊兄さまが桃花島の家に引き取られたのは、武の兄さま達と同じとき。一遍に兄さまが三人も出来たようで嬉しかったのに、楊兄さまだけは、私にかまってくれなかった。見てだってくれなかったわ。だから、大嫌いだった」
 では、初恋だったのだと耶律斉は思った。
 自分の思いにすら気付かなかった、この妻らしい、不器用な ――

私、郭芙のキャラ気に入ってたりする。
彼女の話のところなどは、妙に納得~したりね。
耶律斉と楊過の会話もしみじみでいいね。

たぬきちさんへ

長い引用、ありがとうございます。
どちらも追加&改訂アリ部分なので、うれしいなv-238

郭芙と耶律斉は、確か十歳近く年齢が離れてるんじゃなかったかな……
なので、耶律斉、一部では郭芙との結婚は逆玉狙いだったか、とか言われていますが、
郭芙のわがままなところから、ある種の不器用さまで、全部ひっくるめて愛したんじゃないかと、そう、思っています。

郭芙、原作(日本語訳版)読んでると、「このバカ娘~」とか思う事はしばしばですが、
決して嫌いではないですな、私も。

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