秋水長天

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中国妖艶伝

中国妖艶伝 (文春文庫)

海音寺潮五郎先生の中国モノの短編集で、
1991年、第一刷発行 (^▽^;)
(古い本なので、イメージ画像が無いんですな)

ウチの~というか、私の本棚には、今になってみると、当時、何を思って買ったかな~? と云う本が何冊か入っております。
で、この本も、その1冊。

と云うか、中国モノだろうが、剣豪小説だろうが、SFだろうがFTだろうが、面白そうだと思えば何でも読んでいたころの産物なんでしょうね。
(と、まるで他人事のように(笑)

さて。



この本には、春秋時代、その美貌と妖艶さで一国を傾け、幾人もの男達の運命を変えた夏姫と、彼女を不吉、不祥の女と思いながら、結局は彼女に魅了され、やはり大きく運命を変えられた楚の賢大夫・巫臣(ふしん)を描いた、いわば表題作の妖艶伝   

この夏姫と云う女性が、一種の娼婦性の持ち主と云うのかな、決して悪女ではない、むしろ性質的には善良なんですが、特に熱烈に誰かを愛することがない、愛し、求めてくれる人がいれば、そのように情は返すけれど、別の男性から求められれば、またそちらへ~という、一般から見ればちょっと特殊な性情の持ち主に描かれているのが、作品に不思議な味わいを与えています   のほか、

同じく春秋時代、いわゆるお家騒動に絡み、かけられた恩と義理の網に絡めとられて、死地に赴くこととなる市井の侠客を描いた 
 魚腹剣・中国剣士伝
(この義理と恩と云うのが、将来彼を利用する気で賭けられてるんだから、たちが悪いというか、あと味が悪いというか……)

漢代はじめ、劉邦の死の直後から武帝の即位あたりまでの時代をざっとなぞった
 軑侯たいこう夫人の時代

地方の名士として、孫夫婦を見守りつつ、おだやかな老後を送れるはずだった老人を襲った晩年の不幸と、武人としての死を、安禄山の乱に絡めて描いて余韻深い
 遥州畸人伝

黄金の力で、秦の公子(後の始皇帝の父)を秦王の位につけた呂不韋と、対照的な二人の女性とのかかわりを描いた
 美女と黄金

他、合わせて9つの短編が収録されていますが、この中で私のお気に入りは、ちょっとコミカルな味わいのある2編、

戦乱の余波と運命に翻弄され、度々離れ離れにされた幼馴染の男女が、仙人めいた~というか、ちょっと洪七公っぽい不思議な老人の助けで結ばれる
 鉄騎大江を渡る

これ、主人公たちの台詞が関西弁(おそらくは京都弁?)で描かれているのと、解説では薄幸の麗人なんて書かれてて、宋麗華なんて優雅な名前をつけられているヒロインが、庶民そのものでなかなかにしたたか、風にそよぐ葦さながらに、柔弱に見えて強靭なのと、
主人公である漁師の青年蒲咸ほかんが、意外にねちこい~と云うか、めげない性格で、かなり腕も立つのと、
あと、この蒲咸が麗華を見返すために軍人になろうとして、試験を受けに行くんですが、その戦い方の表現がなかなか笑えて、あと味のよさと共に、楽しい話になっています。

と、
あの、『三国志』の黄巾の乱の元凶となった太平道の教祖、張角の恋を描いた
 天公将軍張角

こちらは、女仙らしい女性に一目惚れした張角が、彼女と結ばれるために仙術の修行をするのですが、弟達のために『太平道』の教祖に押し上げられて~と云う話で、
仙術を見につければ、自由自在の人になれると聞いたのに、教祖にされてかえって不自由になっちゃったよとぼやいたり、折角彼女と巡り会えたのに、弟達に引き離されて、彼女の移り香の残る絹の中で転げまわってくんくん鳴いたり(犬かよ(^▽^;) と云う、非常に人間臭い張角が可愛らしくて、
そのせいで、『三国志』での張角の末路を知っていると、ドキドキさせられたりします。
(でも、意外なハッピーエンドになってますので、ご安心を(笑)


と云う本を、今更のように引っ張り出してきましたのは~
この間の『中国幻想ものがたり』から始まって、同じく井波さんの『破壊の女神』とか、中国の伝奇モノを幾つか読んでいるうちに、
あれ? 確か聶隠娘じょういんじょうに似た話で、結末の違うをどこかで読んだよな~と想い、そうして、ふと思い出したのがこの本だったというわけです。

で、やっぱり載ってました。
 蘭陵の夜叉姫

最初のほうの、尼さんにさらわれて武芸の修行をするところから、卒業試験まではほぼ同じ展開(脳に匕首を仕込まれたりはしませんでしたが)なので、解説では触れられてはいませんでしたが、海音寺先生、きっと聶隠娘を基にされたんでしょう。
が、こちらは、その後がとんでもなく違う展開。
途中経過をすっ飛ばしますと、結局家を出たヒロイン、則天武后に仕える女武官となり、欲求のおもむくままに術を使って行きずりの男性と一夜を共にし、コトが終った後は、その男性を殺害してしまうという日々を送り、結局は師の尼に誅殺される    しかも、生まれ変わった先で、その罪の報いを受ける~って、転生して記憶を消されてからじゃ、罰の意味が無いじゃない    と云う、とんでもない話になっておりました。

いや、まあ……。これはこれで面白かったんですが、それにしても、海音寺先生、なんだってこういう話にされたのか、それとも他に原典があるのか……

と、あと意外な拾い物だったのが、海音寺風に捻りを加えた
 崑崙の魔術師

これ、摩勒の名前って、ここが出典じゃない? って書いた『唐代伝奇』の『崑崙奴』の海音寺版で、

父の使いでさる元老の屋敷へ出かけた若者が、そこの3番目のお妾とフォールインラヴ ヾ(^o^;)
屋敷で使っていた崑崙奴(マレー人だそうです)の摩勒のおかげで、その女性のかけた謎を解き、心ならずもここの主人の妾になっているが、この屋敷から逃れたいという女性を助け出して、めでたく結ばれますが~と云う話で、
この海音寺版では、時代が安禄山の乱の直後で、主人公が訪ねた元老が、何と! 郭子儀になっていたんですよ。

で、摩勒の腕前を知った郭子儀が、摩勒を召抱えようとするんですが、腕試しのために兵を差し向けたもので、摩勒には逃げられ、恨みを買ったと思い込んで~という展開になっているものですから、やはり摩勒の名前は、これが原典だったか! と躍り上がらんばかり(大げさな(^▽^;) になったんですが、

念のために、駒田信二さんの『中国怪奇物語・神仙編』を確認してみたら(あるんですな、こういう本も)残念ながら元老の名前、ここでは劉某になっておりました。

でも、海音寺先生が郭子儀の名前を引っ張り出したということは、何か原典となるものが、どこかにあるのかな~と想像してみるのも、悪くないかもしれません。

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Comment

崑崙奴 

>やはり摩勒の名前は、これが原典だったか!
その通りです。
「崑崙奴の摩勒」から鉄摩勒、鉄崑崙親子の名前がつけられています。
ちなみに崑崙奴の崑崙は、西域の崑崙山ではなく南方の昆崙島のことで、現在のベトナムにある昆山島のことのようです。
  • posted by 八雲慶次郎 
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  • 2009.10/29 11:56分 
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どこかで読んだな~、で、たくさんある蔵書(たぶんそうじゃないかと拝察)の中から、ちゃんとその本を見つけられるところがスゴイ!
私は読んだ傍から忘れていくので、その記憶力が羨ましいです。

摩勒親子の名前に由来があったんですね~!
その名前にした意味があるのかどうかも興味深いところですね。

  • posted by ふく*たま 
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  • 2009.10/29 14:29分 
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八雲さんへ 

毎度、情報ありがとうございます!
やっぱり、摩勒親子の名前、ここから取られてたんですね。
それにしても、そうすると、摩勒なんて、かなりエキゾチックな名前でしょうに、
主人公にその名前をつけたというのは、何か深い意味があったんでしょうかね?
(ただ、印象的な名前にしたかった、というだけだったらコケますよ(~_~;)

> ちなみに崑崙奴の崑崙は、西域の崑崙山ではなく南方の昆崙島のことで、現在のベトナムにある昆山島のことのようです。
なるほど~。
崑崙と言われると、つい、西域のほうを考えてしまいますが、
そういえば、解説のほうには、摩勒にマラッカとルビが振ってありましたw
  • posted by rei★azumi 
  • URL 
  • 2009.10/29 18:12分 
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ふく*たま さんへ 

いや~。それでも、思い出すのに2日はかかってますし(^^ゞ
それに、仕事面では、3歩歩くと忘れるようになっちゃってます d( ̄  ̄) ヾ(^o^;オイオイ・・・

> 摩勒親子の名前に由来があったんですね~!
そうなんです。もしや? の予想が大当たりで(笑)

> その名前にした意味があるのかどうかも興味深いところですね。
ですね~。あまり、一般的な名前とは思えませんものね。
このネーミング、はたしてストーリーに係わってくるのかどうか?
  • posted by rei★azumi 
  • URL 
  • 2009.10/29 18:16分 
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>『崑崙の魔術師』
へぇぇ~!面白いですね!
しかも魔術師って…ミステリアス!
「大唐游侠伝」の摩勒は、
割と直情型な感じですが…(爆)
ほんと、ネーミングとストーリーの関係性、
気になります!

そのほかの、『蘭陵の夜叉姫』とか『妖艶伝』とかも
面白そうですね!

  • posted by 阿吉 
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  • 2009.10/29 21:03分 
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阿吉さんへ 

こちらの摩勒の行動や能力を見ると、むしろ侠客っぽいんですけどね~
十数年後に再開しても、全く年をとっていなかった=仙人もしくは、それに類する力を持った人間=『魔術師』ってタイトルになったのかと思われます。
でも、話は面白かったですよ。

> ほんと、ネーミングとストーリーの関係性、
> 気になります!
ね~。
ストーリーの中で、ネーミングの由来が明かされるといいんですが。

> そのほかの、『蘭陵の夜叉姫』とか『妖艶伝』とかも
> 面白そうですね!
はい。
歴史系とか伝奇系とか、収録されている内容が多彩で、
これだけあれば、必ず気に入る話はあるかと(笑)
  • posted by rei★azumi 
  • URL 
  • 2009.10/30 18:24分 
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『蘭陵の夜叉姫』rei★azumiさんのあらすじを読んで、この本を読んだ記憶がよみがえりました(笑)、が・・・『崑崙の魔術師』は全く記憶にありません(苦笑)

>摩勒
何だか南方系の名前だと思っていたら、元はやはりそうでしたか。

>その女性のかけた謎を解き、心ならずもここの主人の妾になっているが、この屋敷から逃れたいという女性を助け出して、めでたく結ばれますが~と云う話で、
何か、妾を妹に替えると、ドラマのこれからを予感させるような・・・
  • posted by Mario 
  • URL 
  • 2009.10/31 19:30分 
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Mario さんへ 

お! 読んでおられましたか。
『崑崙の魔術師』は『蘭陵の夜叉姫』の前に載っておりました。
短い話でしたけどね。

> 何だか南方系の名前だと思っていたら、元はやはりそうでしたか。
そうなんだそうです(日本語が変?)
で、はたして、このネーミングに意味があるのかと云うのも、興味のあるところで(^m^)

> 何か、妾を妹に替えると、ドラマのこれからを予感させるような・・・
あははは……。 本当ですね!
摩勒のネーミングは、もしかして、そういう意味で? (笑)
  • posted by rei★azumi 
  • URL 
  • 2009.11/01 18:50分 
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Author:rei★azumi
ヒト属ネコ科 コタツ猫亜種 読書ネコ
『神鵰侠侶』で金庸にハマった、金庸初心者。
とりあえず、金庸の小説全作品読破を目指すも、突如神鵰侠侶二次小説にハマる。
さて、この先、どうなりますことやら。

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