吉原御免状

吉原御免状 (新潮文庫)吉原御免状 (新潮文庫)
(1989/09)
隆 慶一郎

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『浣花洗剣録』を見たり、記事を書いたりしているうちに、若い頃(笑)に熱心に読んだ、柴田錬三郎やら隆慶一郎やらの小説が懐かしくなって、
剣と恋――というか、孤独に生い立った青年剣士の成長と恋の物語ということでは、『浣花~』の作品世界は、むしろシバレンさんの剣豪小説――いわゆる戦国三部作――と言ってもわからないか(^▽^;)や、『運命峠』の方が近いかな~~と思いつつ、
なんか、気分的にはこちらの方がしっくるくるかしら~と、引っ張り出してみました。
(というより、隆作品は未だに大好きなので、大抵がすぐ読める場所に待機させてあるんです(笑)
うん。やっぱり、しっくり着ました。


さて。


江戸初期、宮本武蔵に肥後山中で育てられた松永誠一郎は、二十六歳の秋、武蔵の遺言に従い、自身の出自を示す鬼切りの太刀と、武蔵の添え状を携えて、江戸は新吉原の惣名主・庄司甚右衛門を訪ねます。
それはすなわち、徳川家存亡の危機にかかわるほどの、神君家康の秘密を内に秘めた『吉原御免状』――御免色里、すなわち公営の遊里の特別営業許可書のようなもの――をめぐる、裏柳生との血みどろの争いに、否応なくその身を投じてゆくことでした。

ということですが、主人公の松永誠一郎青年、う~ん、強いてわかりやすい喩えを引っ張り出すと、もうちょっと大人になった袁承志(えん・しょうし)、かなぁ。
心の中には、わずかに哀しみを秘めた、からりと晴れた青空を持った、と同時に、童子のような無垢な素直さを持った、なかなかに爽やかな好青年。
ですが、十四歳まで武蔵によって二天一流を仕込まれ、それ以降は一人で自身を鍛えてきた――ということで、当然のことながら、苛烈な剣士でもあります。
が、いろいろな面で、非常に魅力的な主人公でもあります。
(みょーに素直な所が可愛かったりしますし(^m^)

で、その相棒で、吉原の案内人(かつ、誠一郎の教育者みたいな?)になるのが、表向きは死を装って幻斎を名乗っている庄司甚右衛門老人。
元小田原北条氏の家臣で、傀儡(くぐつ)一族(漂白の遊芸集団であると同時に、忍者でも戦いを避けるという優秀、苛烈な戦士の集団)の総帥という特殊な出自を持つこのご老人、八十歳を超えているのに六十そこそこの外見の上、唐剣法の使い手ですが、
これが粋で洒脱で、さらには“人たらし”の名人という、これまた良い味の爺サマでして……
(この頃から爺サマ萌えしてたわけじゃない――ハズですが(^▽^;)

その他、誠一郎をめぐる女性たちとして、吉原の二大名花、高尾、勝山の両太夫――特に勝山は、実は裏柳生の密偵ということで、誠一郎との関係は悲恋になってゆきます、
甚右衛門の孫で、予知や読心の特殊能力を持ち、誠一郎を慕う可憐な少女“おしゃぶ”(和尚婦――すなわち巫女というほどの意味)

誠一郎にとって重要な存在となる柳生流の総帥、柳生飛騨守――又十郎宗冬も渋くて魅力的ですし、
敵のラスボス――というか(笑)、
誠一郎の宿敵となる裏柳生の総帥、柳生烈堂こと、十兵衛、宗冬たちの末弟、義仙――って、そこ、またまた引かないように。烈堂が実在の人物だったって、私もマジで驚きましたからね。
これがなかなか、悪役らしい悪役でして……
ところが、この人の末路がねぇ、これの続編の『かくれ里苦界行』に書かれているんですが、実に苛烈、かつ爽やかで、ワタクシ的には非常に好きなシーンでもあります。

というか、隆慶一郎作品の登場人物、大抵が非常に思い切りがよくて、強くて、この上なく優しくて、騒々しくなく陽気で明るくて、非常に魅力的です。
誠一郎と友誼を結ぶ旗本奴の水野十郎左衛門たちも、ドラマでよく描かれるようなワルじゃなく、時代に後れてきた若者たちの悲哀やら暴れる理由も描かれていて、つい、感情移入してしまいます。

で、中心となる舞台が吉原なので、そういうシーンも描かれますが、全くいやらしくないし――というか、文章自体が、美辞麗句やらこ難しい漢文調やらが並んでいるわけじゃない、むしろ平明な読みやすい文章なんですが、これが、改めて読むと、なんとも言えず良い。
もともとがフランス文学をやっておられた方ということなんですが、やっぱ敵わねぇよなぁと、溜め息ついちゃいました。
(てか、そもそも敵うと思うほうが僭越なんですが)

あと、肝心のアクション――というか、立ち回りのシーンも、これは、池田一朗の名前で時代劇の脚本を書いておられたからかな、それぞれに工夫が凝らされ、時にアクロバティックなものもあり、これまた読んでて飽きない――というか、結構ドキドキものでありました。
(幻斎老人と誠一郎の、虎乱という柳生の集団技破りなんか、中国の武侠で使っても十分通用しそう(笑)

と、誠一郎の剣士としての能力も、精神面はすでに出来上がっている感じなので、パワーアップは新たな技の習得ということで、このあたりも武侠小説っぽいかなぁ。
ということで、武侠好きの方も、読んで損はないと思います。

興味の出た方は、是非、ご一読を。

おっと、そう、そう、忘れる所でした。
今回読み返して、ちょっと引っかかったと言うか、印象的だった文章が、誠一郎が初めて人を斬った後の気持ちの中で、

 悔恨はなかった。敵を斬るための刀法を学んで、現実に人を斬り、悔恨を覚えるとは矛盾ではないか。刀を握る動作一つにも、敵を斬るためと思うべし。武蔵はそう教えている。(本文より)

というもの。
どうして、この文章が引っかかったかというのは、『浣花~』の、後の方にかかわってくるんですが、それは又後日(笑)



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隆慶一郎作品には、私も一時ハマってましたー!
「影武者徳川家康」に衝撃を受け・・・(笑)
物語は面白いし、登場人物もかっこよくて魅力的ですよね~。
急逝されたのが残念です。隆作品、もっとたくさん読みたかったですよね。

ふく*たま さんへ

おお! ふく*たま さんもですか!
私は『鬼麿斬人剣』から読み始めたんですが、とにかく、一作として外れがない、作品ごとにそれぞれ独自の魅力があって、感銘がある。
とにかく、すばらしかったですね。

>急逝されたのが残念です。隆作品、もっとたくさん読みたかったですよね。
同感です。
特に、未完に終わっている『死ぬことと見つけたり』や、『見知らぬ海へ』は。

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rei★azumi

Author:rei★azumi
ヒト属ネコ科 コタツ猫亜種 読書ネコ
『神鵰侠侶』で金庸にハマった、金庸初心者。
とりあえず、金庸の小説全作品読破を目指すも、突如神鵰侠侶二次小説にハマる。
さて、この先、どうなりますことやら。

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