秋水長天

 遊子帰客 夢断故郷雲水之間    西風古道 回首一片秋水長天

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『浣花洗剣録』二次小説  我愛你 -独白-

「わたしのこと好き?」
 君が訊いた時、俺は戸惑ってしまって答えられなかった。
 勿論、答えられなかった理由は、君の表情を曇らせたように、君を好いていないからじゃない。今更訊かれるとは思わなかった ―― 俺の想いは、もう十分に伝わっていると思い込んでいたからだ。
 女性というものが ―― これは君に限ってのことなのだろうか ―― 言葉を必要とするものだなど、男の俺には分かるはずもない。
 まして ――
 君の俺への想いは訊くまでもなく十分以上に伝わっていた。だから、君も同じだと思い込んでいた。


「ねえ、わたしのこと好き?」
 まだ訊くのか?
 好きだよ。
「好きだから一緒にいる」
 好きでなければ、生涯をともに歩いてゆきたいとは思わない。
 この恋を至上の ―― 命の恋と思わなければ、一緒に生きられないのなら、せめて一緒に死にたいと、おとこが思いつめるものか。
 我愛你。
 この国ではそういうんだな。
 珠児。
 君を愛してる。
 そうと自分に思い知らされたのは、あの日の菜の花畑。
 ならば、君を愛し始めたのは、いつからだったろう。
 いや。初めて君を見たあのときから、俺は君にかれていたのだろう。
 そう。宝玉が俺を挑発し、その行為に怒った君が席を立った、あの時からだ。
 女性というものを、俺はそれほど多く知っているわけではないが、師父の、あの亡くなった夫人のように、内に激しいものを秘めていてもそれを表には出さない、ただ嫋々じょうじょうと男に従うだけのものだと、そう思っていた。そんな俺に、はっきりと何かを主張する君の態度は、ひどく新鮮に思えた。
 それでも、李驍然り・ぎょうぜんを手に掛けたのは君ではなく俺だと皆の前で釈明しろと、ついてきてしまった君の存在は、俺にとっては煩わしいものでしかなかった。
 いや。無理にもそう思い込もうとしていたのかもしれないな。
 剣一筋 ―― というより剣のほかは何も知らない、師父の言葉だけが至上の、当時の俺だったから。
 だから、自分から別れを告げたくせに、君が宝玉に連れ去られたときは、胸にぽかりとあいた穴に自分で戸惑ったものだった。
 いつのまに君という存在が、俺の胸深くに住み着いていたのかと。
 だから ――
 紫衣侯との決闘に敗れながらも不思議に命を拾った俺の前に再び君が現れたとき、俺はもう、君をただの行きずりの女性とは考えなかった。
 宝玉を案じ心を寄せる君の様子に嫉妬さえした。そう正直に言ったら君は笑うか呆れるか? それとも、信じないだろうか。
 それでも ―― いや、だからこそ、俺は自分の心ごと、君を斬り捨てようとした。
 剣客が剣を抜くときは相手を斬ると覚悟を定めたとき。そうして自分も斬られる覚悟を決めたとき。そう教えられて育ち、初めて果し合いの場に臨んだときから、常に死とは背中合わせ。そんな俺に女性を、君を、愛情を受け入れるゆとりなどない。
 あの日の菜の花畑で、だから俺は君を試した。君が想いを寄せてくれていることは知っていたが、それが軽薄なものなら命惜しさに逃げ出して、そうして永遠に俺から去ってゆくだろうと、そう思ってのことだった。
 そうして敗けたのは俺だった。君にも、俺自身にも。
 君の想いの強さとともに自分の想いを ―― 君を愛していて、失うことに耐えられなくて、師父のように全てを切り捨てて剣一筋には生きられないことを、俺は自分自身に思い知らされた。
 珠児。
 君とともに生きてゆきたい、生きてゆくのだとそう決意したのは赤鬆せきしょう道士との決闘の後だ。
 傷を負った俺を胸の痛みごと抱きしめた君は、ただ、一緒にいていいかと、それだけを訊いた。勿論と、俺はそれだけしか答えられなかったが、あの水車小屋で君が待つ、それを思えばこそ、俺は途中で倒れずに帰りつけたんだ。
 『天涯海角』。天の果て地の限りまで、君が望むならずっと一緒に。だから、この言葉に嘘はない。
 珠児。
 この尼寺で暮らす君は、本当によく笑う。
 些細なことで騒ぎ、はしゃぎ、声を上げて笑う、時々君は子供のようだ。
 これが本来の君なのか。
 そんな君を見ていて、以前の君の笑顔をほとんど覚えていないことに、俺は気付いた。
 いや。そもそも、こんな屈託のない笑顔を、見たことがあっただろうか。
 俺の記憶の中の君は、いつも不安そうだったり、悲しそうだった。
 (出会ったばかりの頃は、よく怒ってもいたか)
 この土地に辿り着いて、ようやく君と巡り逢えたときさえ、真っ先に浮かんだのは、あの菜の花畑での君の泣き顔だった。
 だとしたら ――
 記憶をなくしたのは良いことなのか。
 師太の言葉に、漸く少しばかり得心がいった。
 記憶をなくしていても君は君。魂までもが変わってしまったわけじゃない。
 ならば、あの恋の記憶は俺一人の胸にたたんで、今の君を静かに愛してゆけばいいのかもしれない。たとえ記憶が戻らなくても、君は俺の愛した珠児、愛している珠児に違いはないのだから。
「今と以前と、どっちの私が好き?」
 君の問いに、どちらもと答えたのは、だからだよ。
 今も昔もない。丸ごと全部が俺の愛している珠児だ。
 そう、思えはじめた矢先だった。
 君の記憶が戻っていることに気付いたのは。
 さほど驚きはしなかったよ。それ以前にも、俺を見る君のまなざしに、ふとした仕草に、ごく小さな予感のようなものを感じてはいたから。
 珠児。君はここを好きだと言ったね。
 君の嘘は、ここでの暮らしを手放したくないからか。
 俺もここは気に入っている。ああ。多分、好きだと言っていい。
 生まれてはじめての、剣とも果し合いとも江湖の争いとも無縁の日々。今日と同じ顔をした明日が確実に訪れ、違いを知らせるのは育ってゆく作物と季節の移ろいだけ。俺のそばには屈託なく笑う君。
 そうして俺たちを見守る師太の目。
 時々経文を忘れたり間違えたりするらしいあの尼御前が、俺には時折菩薩に見えるよ。
 本当の名僧とはああいう人なのかもしれないな。
 地位や学識や、ましてや立場でもなく、その心根、魂のありようが、人の本当の値打ちなのだろう。
 そんな少し不思議な師太に守られた、ここは俺には小さな桃源郷のようだよ。中原の伝説のそれとは違うけれど。桃の花もない。ああ、外は今は八重桜が盛りか。
 人の世の幸せとはこういうものかと、そう思う。
 師父の遺命を果たしたら、どこか静かな所で、君とひっそり暮らしたい。そう言ったら、木郎には夢見がちだと笑われたが、その望んだ暮らしの雛形がこれだ。
 夢幻泡影。この世はうたかた。過ぎ去る影か夢幻ゆめまぼろしのようなもの。仏の教えでは言うそうだ。
 そのうたかたの世の泡沫のほんの一つか二つ分、お互いの小さな嘘で満たして、もう少しだけ、この桃源郷のような世界で羽根を休めていても許されるのじゃないだろうか。
 だから俺は、君の記憶が戻っているのに気付かないふりをした。
 君との、このささやかな幸せを手放さないために。
 その世界を、昨日は離れたくないと言った君が、今日は出てゆこうと言う。
 旅の空で、外の世界を見て、記憶が戻ってきたふりをするつもりか?
 いいよ。君が望むなら、俺はどこまでも一緒に行く。
 師父の遺命を捨てられない俺の、これが君にできることだ。
 そう。師父の遺命を捨てることは俺には出来ない。 
 もし師父が存命で、ただ宝剣の獲得だけに俺を中原に送り込んだのだったら、願って役目を解いてもらうことも出来たろう。
 不出来な弟子と叱られ、呆れられもしただろう。あるいは示しがつかないと破門されたかもしれない。それでも、最後にはわかってもらえただろう。俺を育てた師父は、そういう人だった。
 だが、師父はもうこの世の人ではない。亡くなった師父の魂と俺自身に誓った誓いを、俺は破ることは出来ない。
 だから ――
 せめて君を守り、君に寄り添ってゆく。
 君と一緒にいられれば、他には何も望まない。
 
 我愛你
 愛してる。
 君を愛してる。
 いつか君は、これも口に出して言うことを求めるのだろうか。
 君を愛してる。
 言葉にすると少し ―― いや、かなり照れくさい。















珠児の記憶って何がきっかけで、どんな具合に戻ったんだろうなぁ……
と、それを探っているはずが――なぜか、こういう話が降りてきてしまいました。
レビューから零れ落ちた分や、あとから思いついたけれど書き込めなかった分を集めた、大臧くんの誰にも語らない、いわば告白話。
実は一昨日まで浅田次郎さんの小説を読んでまして、あの方の作品にはこういった独白形式が挿入されるものが多いので、その影響が多分に入っているわけですが……
これ、書いてるうちは八割がた向こうの世界に入ってるんでいいんですが、推敲しようと思って正気に返って読み返したら、もう、無茶苦茶恥ずかしいですな(^_^;)

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| 浣花洗剣録 | 2013-02-10 | comments:4 | TOP↑

我愛你…。大臧くんの口から是非聴きたいお言葉ですね(*´∇`*)

でも、この言葉を口にするには、かなりの時間がいるでしょうね(^_^;

多くを語らない大臧くんの想いが、いい感じに綴られていて良かったですし、愛に溢れた内容でツボが刺激されて「萌・萌・萌!」状態です。(*≧∀≦*)
お見事でした(^-^)

これを読んでいたら、流星剣侠~の二次小説を書きかけ放置していたのを思い出しましたf(^_^;
柳青師兄&楚楚のはなしなんですなんですけどね(^^)。
完成したらUPしようと思っていますが春まで間に合うかな…?




| 矢神由香 | 2013/02/10 23:38 | URL |

由香さんへ

早速のコメント、ありがとうございます。

>我愛你…。大臧くんの口から是非聴きたいお言葉ですね(*´∇`*)

ですよねぇ。
でも、まず言いそうにありませんねぇ。
だって、なんせお筆先の私ですら、無茶苦茶恥ずかしいんですよ!
それを、「好き」と言うだけであれだけ間の空いた大臧くんが……無理だな(^▽^;)
というコトで、二次小説で無理やり言わせて見たんですが(笑)
気に入っていただけたようで嬉しいです。

>流星剣侠~の二次小説を書きかけ放置していたのを思い出しましたf(^_^;
>柳青師兄&楚楚のはなしなんですなんですけどね(^^)。

あ。それは是非、頑張って完成を。
特に期限を切らないで、話が熟成するまでじっくり待つ、と言うのもひとつの手ではありますが。
ともあれ、完成、楽しみにしております。

| rei★azumi | 2013/02/11 10:32 | URL | ≫ EDIT

いやはや、読んでいてドキドキ・・・というか、照れました(〃∇〃)
大臧くんの心を覗いているようで(秘めた想いの独白なので、当たり前なんですが)、見てはいけないものを見てしまったような、申し訳ないような気分に・・・(^^;ゞ
でも、「この尼寺で暮らす君は、本当によく笑う。・・・」という件がとても好きです。
見ているこっちがそう思ったんだから、傍にいる大臧くんはもっと敏感に感じているはずだよね、と気づかされました。
「どっちも」には、大臧くんの深い想いがあったのね~!
素敵なラブストーリーをありがとうございました~♪(^ー^)
バレンタインシーズンにぴったり!

| ふく*たま | 2013/02/12 11:51 | URL | ≫ EDIT

ふく*たま さんへ

ありがとうございます。
やっぱ、照れますか。
推敲しつつ読み返して、なんだってこんなに恥ずかしいんだろう? と思ったんですが、つまりはそういうコトなんですよね。

>「この尼寺で暮らす君は、本当によく笑う。・・・」
この件、書いてるときは大臧くんにシンクロして、ものすごく珠児が愛おしい気持ちになっていました。
気に入っていただけて嬉しいです。

>「どっちも」には、大臧くんの深い想いがあったのね~!
語らない分余計に……ですね。

>素敵なラブストーリーをありがとうございました~♪(^ー^)
いえ、いえ、こちらこそ。
気に入っていただいて、ありがとうございました。

さて。次は何とか、珠児にシンクロでできるといいんですが……。

| rei★azumi | 2013/02/12 18:37 | URL | ≫ EDIT















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